今日は。オンライン絵画教室アートスタジオ海の中道さかいです。
今日は油絵の具の黒の種類と違いについ書いてみようと思います。
油絵の具に限らずアクリル絵の具や水彩絵の具を描かれている方にも参考になるかと思います。
油絵具の初心者セットには何故かアイボリーブラックが入っていますので黒といえばアイボリーブラックと思っている人が多いかもしれませんが実は黒にも色々な種類がありますのでその性質の違いや使い方をみていきたいと思います。
但し油絵の具はAシリーズからIシリーズまであり、同じ色でも一番リーズナブルなAシリーズと高価なIシリーズとでは顔料その他の成分が随分と違っていると思われますのでその性質も若干違ってくるかと思います。
ここでは一般的に言われていることとそれぞれの黒のAシリーズで比べた結果を書いていきます。
初心者の方はAシリーズを使われることが多いのではないかと思いますので。
(チューブの側面にA,Bなどの記載があります)
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油絵具で黒を使う場面とその是非
よく「絵に黒は使わないほうが良い」と言われることがあります。
これは近代以降特に印象派や外光派の画家達が外の明るい光に照らされたモノを表現する際の陰影の表現に補色を使うということをやってきたためであると考えられます。
しかしそれ以前のヨーロッパ絵画では黒の油絵の具は貴重な色だったと思われます。
特に黒やアンバー系は顔料が安く手に入るという事情もありました。
褐色調の絵の中で黒単独を使えば青く見えるとも言われています。
古くから水彩画でも使われてきたグリザイユ技法は予め黒の濃淡(白黒グレー)で描いておくという技法ですしルネサンス期以降のバロック絵画では黒っぽいアンバー系の背景のなかに人物を浮かび上がらせるというドラマチックな表現が多用されました。
これは当時の画家達は宮廷のお抱え絵師であったり、教会の注文を受けて描く、もしくは金持ちの注文主の要望に応えて描かなければならない「職人」的立場であったため、誇張された動きや強烈な光の対比で劇的な効果や緊張感、仰々しい豊かさや人物の偉大さなどを表現する必要があったからだと思われます。
東洋では「墨絵」「水墨画」など黒は当たり前のように使われる色でした。
20世紀現代美術では黒はむしろ「迫力のある色」として使われてきたと感じます。
私個人的には黒はとても好きな色です。
あらゆる色を混ぜ合わせると絵の具やインクの加法混色の場合黒は全ての色が混じってできる色ということになります。
なので色彩心理的には「あらゆる感情が入り混じった色」ということもできます。
但し陰色に安易に黒を混ぜると絵が濁って汚くなるので注意が必要です。
油絵具の黒の顔料の種類と違い
昔から油絵(絵画一般)に使用されてきた黒の顔料は主に次の3種類があります。
顔料とはあらゆる絵の具を作るもとになる顆粒状のもののことです。
顔料の種類や違いが色味や乾燥度、着色度の違いに繋がってきます。
■象牙や動物の骨を焼いて炭にして顔料にしたもの→アイボリーブラック
■木の枝や種などの植物を焼いて炭にして顔料にしたもの→ピーチブラック
■油脂類を燃やした際の煤を集めたものを顔料にしたもの→ランプブラック
その他には・・
■酸化した鉄を顔料にしたもの→マルスブラック
等があります。
それぞれの顔料の種類について詳しくみていきましょう。
油絵具の黒の顔料の種類~象牙、象牙カス、骨を焼いたもの~
これはアイボリーブラックに使われている顔料です。
顔料種類名:C.l.Name 「PBk9」
Pは顔料を意味するPigment BkはBlack
9は顔料につけられている通し番号のようなものです。
象牙=アイボリーなので、象牙や象牙カスを高温で蒸し焼きにして出来たものがアイボリーブラックの顔料ということになります。
現在では象牙が使われることは殆ど無く牛などの骨が使われているので「ボーンブラック」と言われることもあります。
ですが一部の高級な種類の絵の具(ホルベイン油一、ホルベインヴェルネなど)では本物の象牙が使われているようです。
ホルベイン油一(ゆいち)とは東京芸術大学とホルベイン工業が産学共同開発した高級ブランド油絵の具でお値段は20ml30色入りで60000円近く。
ヴェルネとはホルベインの高品位な種類の油絵具でお値段は20ml12色入りで19000円近く、、です。
純粋な昔ながらの顔料と品質を追求すると違いがでてきてこのお値段になってくるんですね。
比較的リーズナブルな油絵の具の顔料は専門家用ピグメントとして単独で売られています。
因みにクサカベアイボリーブラックのピグメント(顔料)は30グラムで400円ほどです。
19世紀にチューブの絵の具が発明される前は画家は自分で顔料の粉から色々な種類の油絵の具を作り出して違いをだしていました。
油絵具の黒の顔料の種類~木の枝や種などを焼いてできたもの~
これはピーチブラックの顔料です。
顔料名:C.l.Name 「PBk1」
昔は桃(ピーチ)の種を焼いて顔料にしたことから通称ピーチブラックとなっていますが広く木の枝や植物炭全般が使われていました。が現在では殆どが縮合アニリン系でこの顔料が作られています。
クサカベ専門家用アニリンブラックピグメントは20グラムで320円ほどで売られています。
油絵具の黒の顔料の種類~油が不完全燃焼した時にでる煤を集めたもの~
これがランプブラックの顔料のもとになります。
顔料名:C.l.Name 「PBk6」
クサカベ専門家用ランプブラックピグメントは10グラムで310円ほど。
上2種類の顔料に比べて高いですがホルベイン油絵の具Aシリーズに関してはお値段は3種類同じです。
油絵具の黒の顔料の種類~鉄を酸化させたもの~
これはマルスブラックの顔料です。
顔料種類名:C.l.Name 「PBk11」
酸化鉄は自然界に鉱物として見いだされ、酸化数に応じて色味に違いがでてきます。
いわゆる鉄の錆(さび)の色ですが、、
酸化鉄Ⅱ系顔料:黒色→マルスブラック
酸化鉄Ⅲ系顔料:赤色もしくは錆色→シエンナー、アンバー(ラスコーの洞窟壁画)
日本でしばしば弁柄(ベンガラ)という呼び名で用いられてきたのは赤茶色系の酸化鉄です。
この鉄顔料は毒性が無く、耐湿性があり、退色しないので絵の具だけでなく化粧品にも用いられてきました。
また天然の酸化鉄の顔料は黄土(オーカー)と呼ばれることもあります。
(出典:Wikipedia)
マルスブラックはバーントシェンナー、アンバー、イエローオーカーの仲間なんですが酸化鉄の種類に違いがあるのですね。
油絵具の黒の種類と違い
では実際にこれらの顔料を使ってできた油絵の具の黒の種類と特徴の違いを見ていきましょう。
4色全てAシリーズです。
黒の油絵の具~アイボリーブラック~
私は白黒グレーで長年油絵を描いてきましたがこの文房堂のアイボリーブラックが好きでここ10年ほどはこれを使ってきました。
この黒の油絵の具、上はホルベインのアイボリーブラック、下は文房堂のアイボリーブラックです。
両方ともAシリーズですが同じAシリーズでもホルベインと文房堂のアイボリーブラックでは色味と質感に若干の違いがあります。
あくまでも私の好みの問題ですが下の文房堂の黒(アイボリーブラック)のほうがきれいに見えてしまいまして、、
ホルベインでもシリーズの違いで変わってくるのだと思いますが、、
因みに一般的なアイボリーブラックの特徴と他の黒との違いは
・赤みのある黒(暖かい色味、暖色系)であること
・植物性の黒に比べて漆黒度が高いと言われることもあれば低いと言われることもある
これは現在の絵の具は製造方法が工業的で他の顔料が混じっていたりするので一概には言えないということのようです。(シリーズによって違いがある可能性も)
・家畜の骨を焼いて作られるのでボーンブラック、動物性黒と呼ばれることも他の黒との違い
・骨炭に含まれるリン酸カルシウムは絵の具の乾燥を著しく遅くし、またこれを栄養分としてカビを発生させやすいということも他の黒との違いといえる
(出典 西洋絵画の画材と技法: Norihiro Matsukawa)
本当にアイボリーブラックは乾燥が遅いです・泣・
冬場に厚塗り、多用しないことをお勧めします。
夏場でも黒を厚塗りした上から何か色を被せると亀裂を生じる可能性があります。
カビに関しては防カビ材も配合されているようですし、私の場合は今まで特にカビが生えて困ったという経験はありません。
ですがなるべく湿気の少ないところに保管することと保護ワニスをかけておくのが良いようです。
保護ワニスをかけたあとにホルベインの水彩保護ワニス(防カビスプレー)をかけておくと尚良いとのこと。
水彩用といっても油彩にも使えるようです。
日用品売り場で売っている防カビスプレーは作品まで壊してしまう成分が含まれている可能性もあるので使わないほうが無難、、とのことです。(ホルベインサイトより)
・不透明 またアイボリーブラックは透明度が高いと言われることもありますが私が持っているAシリーズはホルベイン、文房堂ともに「不透明」と記載されていて実際色味はかなり強いと感じます。
なので不用意な混色は禁物です。
これもシリーズによって違いがでてくるのではないでしょうか。
・堅牢度は★★★とあります。
・光沢あり
黒の油絵の具~ピーチブラック~
ホルベインのサイトによれば漆黒度が最も高い、見た目が一番黒いブラックとされていてこれが他の黒との一番の違いですね。
・色は暖色と寒色の中間調・・これもアイボリーブラックとの大きな違いといえます。
・半透明
・乾燥日数は3日前後
・耐光性 ★★★
・光沢は少しあり
黒の油絵の具~ランプブラック~
・鉱油、樹脂などを燃焼した時にでる煤を集めたもの
・植物炭より青みのある黒・・これがアイボリーブラック、ピーチブラックとの違いですね。
・半透明
・乾燥日数は3日前後
・耐光性★★★★
・光沢はなくマットな感じがするのがアイボリーブラックやピーチブラックとの違いですね。
黒の油絵の具~マルスブラック~
・酸化鉄をもとに作られた顔料
・青みを帯びた黒(寒色系)
・オキサイド(酸化した)ブラックという名前で売られていることもある
・マルスは火星のこと。火星の表面が酸化鉄に覆われていることからマルスブラックと呼ばれる
・Aシリーズは不透明(クサカベ)
・乾燥日数は3日(気温にもよる)と書いてありますが他の黒より若干速いような気がします。
・耐光性★★★★★
・堅牢性☆☆☆☆☆
・これも光沢はなくマットな感じがするのがアイボリーブラックやピーチブラックとの違いのようです。
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油絵具の黒に白を混ぜてみる
油絵の具の白の違いは黒を混ぜてみると分かり易いという記事を前に書いたことがありましたが黒も同じように白を混ぜてみると色味の違いが分かり易いです。
歴然としてわかるのはアイボリーブラックが茶系だということです。
上のパレットは4種類の油絵の具の黒にチタニウムホワイトを混ぜたものです。
チタニウムホワイト自体が暖色系なので全てが若干暖色に傾くというのはありますがアイボリーブラック→ピーチブラック→ランプブラック→マルスブラックの順に青みが増していく感じです。
マルスブラックになると少し紫がかっているようにも見えます。
これはまだ下描き段階なので文房堂のアイボリーブラックとファンデーションホワイトの掛け合わせで描いています。
ファンデーションホワイトはシルバーホワイトの仲間なので暖色系です。
アイボリーブラックも暖色系なのでこの2色の組み合わせは相当茶色っぽくなります。
右下の部分を見てもらえば明らかかと、、
上描きではチタニウムホワイトを使いますがこれも暖色系なので・・
因みにこれは試しにアイボリーブラック×ファンデーションホワイト(暖色系)で下書きしたものにピーチブラック×チタニウムホワイト(暖色系)で左側の部分に上書きしたものです。
ここでは左側の部分(ピーチブラック)はかなり青っぽく見えます。
なのでランプブラックとマルスブラックを使って上描きするともっと青っぽく見えるのではないかと思います。
マルスブラックの乾燥は他の黒より若干速いような気がします。
アンバー系の絵の具が乾きが速いのと関係しているのかも、、と思ったりします。
(同じ酸化鉄なので)
*チューブには他の黒の油絵の具と同じ3日と記載されています。
以下に主な黒の種類と性質の違いを表にまとめてみました。
私が試したのは全て油絵の具の黒 Aシリーズです。
シリーズが違えば結果も違うと思いますのでご自分に合う油絵の具の黒を見つけ出してください。
アイボリーブラック | ピーチブラック | ランプブラック | マルスブラック | |
メーカー | 文房堂 | ホルベイン | ホルベイン | クサカベ |
シリーズ | A | A | A | A |
色味 | 暖色系(赤み) | 中間色(漆黒) | 寒色系(青み) | 寒色系(青紫系) |
乾燥(季節で違う) | 4~5日 | 3日前後 | 3日前後 | 3日以内? |
耐光性 | ★4~5 | ★3 | ★4 | ★5 |
透明度 | 不透明 | 半透明 | 半透明 | 不透明 |
光沢 | 〇 | △ | × | × |
顔料 | PBk9 | PBk1 | PBk6 | PBk11 |
油絵具とアクリル絵の具 他にも黒の絵具がある?・・
あまりポピュラーでないけど油絵の具には他の黒の種類があります。
違いはどこにあるのでしょうか。
その他の黒の油絵の具~カーボンブラック~
カーボンブラックは油やガスを不完全燃焼させるかアセチレンなどといった炭化水素を熱分解して作られる炭素の微粒子をもとにした顔料から作られます。
化粧品のマスカラやアイライナーへの添加剤として使われることもあります。
(出典:ウィキペディア)
・顔料のネームはPBk7
・耐光性★★★★★
・不透明
・乾燥4日
・これが「アイボリーブラック」として売られていることもある!
その他の黒の油絵の具~ブルーブラック~
ホルベインが独自に開発したブラックでウルトラマリンブルーが含まれています。
私は使ったことはありませんがホワイトで薄めると青みが強くでるとのこと。
書き出しの部分でアンバー系の色味の中に黒があると青っぽく引き立って見えると書きましたが
その効果を狙って作ってあるのかもしれません。
その他の黒の絵の具~ジェットブラック~
不透明水彩絵の具やアクリル絵の具でジェットブラックとして売られている黒があります。
これの顔料番号はPBk1で、これは油絵の具のピーチブラックの顔料です。
漆黒の黒、、という意味合いがあります。
まとめ
油絵の具で伝統的に(主に)使われてきた黒は下記の3種類
・アイボリーブラック、ピーチブラック、ランプブラック
・現代ではマルスブラックも使われる
・私が体感した主な特徴は・・(Aシリーズ)
アイボリーブラック:赤み、暖色系、乾きが遅い、光沢あり
*カビ対策は特にしたことないが今のところ問題なし、と思っていたら何とカビ発見!
やっぱりアイボリーブラックはカビ対策しとかないとダメですね、、
せめて風通しの良いところに置いておきましょう。
エアーパッキンなどは外しておいたほうが良いと思います。
ピーチブラック:中間色、漆黒の黒、光沢少し
ランプブラック:青み、寒色系、マット
マルスブラック:青紫っぽい、寒色系、マット
・他に黒の種類としては
カーボンブラック、ブルーブラック、ジェットブラック(アクリルや水彩ガッシュ)がある
以上参考になりましたら幸いです。
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