油絵を描いた直後はきれいな色をしていても時間が経つと描いたときの色とはちょっと違った色になっていたという経験はありませんか?
油絵は色々な描き方があってグラデーションもやりやすく面白い画材といえますが変色についての知識が無かったり絵の具の組み合わせや溶剤の性質を知らずにいると長年のうちに「こんなはずじゃなかった、、」と全面修復しなくてはいけなくなる、、こともあります。
このブログでは主な油絵の変色の原因とその対処法を書いてみます。
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油絵の変色の主な原因7つ
油絵が変色してくる原因には色々な事があります。
1白(ホワイト)の変色によるもの
2顔料同志の化学反応によるもの
3顔料同志の物理的反応によるもの
4 絵具自体が変わるもの
5 湿度によるカビによるもの
6 紫外線による退色、変色
7 油絵の具のブリード現象による変色
などなどです。
ではひとつひとつ見ていきましょう。
油絵の変色の原因 白(ホワイト)の変色によるもの
白の油絵の具単体を厚めに出して変色を比べる
これは6種類のホワイトを多めに絞り出して9か月放置していたものです。
*パーマネントホワイトはホルベインのEX(習作用)です。
油絵の具は顔料と展色剤であるオイルで出来ていますがその顔料の性質とオイルの性質の両方の組み合わせで黄変の度合いが違ってくる、、ということになります。
メーカーによって顔料とオイルの割合が違ったりしますので何がどうと明確なことは言えないとも思いますがおおよその目途のようなものはあります。
まず白の顔料の性質から見てみましょう。
■鉛白 シルバーホワイトとファンデーションホワイトに使われています。
有害で黄変しやすい性質があります。
写真ではいまいち分かりにくいかもしれませんが同じ鉛白でもファンデーションホワイトの変色がかなり激しく、実際は殆ど肌色っぽくなっています。
シルバーホワイトも黄変していますがファンデーションホワイトほどではありません。
これはファンデーションホワイトは元々黄変し易い鉛白を黄変し易いリンシードオイルで溶いてあるため変色が激しくなったものと思われます。
シルバーホワイトは鉛白をポピーオイルで溶いてあるためファンデーションホワイト程黄変は激しくありませんがかなり暖色系ですね。
■亜鉛華 ジンクホワイトに使われています。
無害で黄変しにくい性質がありますが亀裂を起こしやすい性質があります。
*ここではジンクホワイトは使っていません。
ジンクホワイトは乾燥すると表面が粉っぽくなってしまうチョーキング現象を起こしますので上に絵の具を重ねるとその絵の具の一部を吸収して亀裂を起こしやすくなります。
変色ということに関してはそう心配は無いのですがチョーキングによって絵の具の艶を無くしてしまいます。
■チタン白 チタニウムホワイトに使われています。黄変はあまり無いほうですがここでは若干変色しています
■チタン酸ストロンチウム セラミックホワイトに使われています。私の実験ではほんの少し黄変しています。
白の油絵の具を薄めに塗ったときの変色を比べる
上は左が9か月前に7種類のホワイトの油絵の具(に同量のアイボリーブラックを混ぜた)とき、右が現在の写真です。
厚塗りしたときに比べてそう変色が気にならないのがシルバーホワイトとセラミックホワイトです。
チタニウムホワイトは真っ白のままでした。
クイックドライングホワイトも気になりませんでした。
意外にもファンデーションホワイトよりも黄変してしまったのがホルベインのパーマネントホワイトEXでした。
これは「習作用」となっています。
ジンクホワイトはそう変色は気になりません。
・ファンデーションホワイトは下塗りかせいぜい中塗りまで。
・下塗りの時にファンデーションホワイトが無い場合はチタニウムホワイト、シルバーホワイトをな るべく薄くぬるようにする。
・ジンクホワイトで下塗りはNG
・シルバーホワイトは暖色系の絵に使う。
・クイックドライングホワイトも厚めに塗ると変色が目立つのでやむを得ないときのみにする。
・ジンクホワイトは上描き最終仕上げのみ。
艶がなくなるので半年後くらいにニスかけをする。
・作品を長く保存したいとき(販売するときなど)にホルベインのパーマネントホワイトを使う場合 はEXではなくSFにすること。
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油絵の変色の原因 顔料同志の化学反応によるもの
鉛白と硫黄の反応による油絵の変色
一般に混色制限と言われているもので
シルバーホワイトやファンデーションホワイトの鉛成分が
硫王系絵の具(N記号・ウルトラマリンブルーやバーミリオンなど)の硫黄と反応して硫化鉛になり黒く変色する恐れがあるというものです。
上のウルトラマリンブルーのチューブ下のほうに小さくNと記されています。
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銅と硫化カドミウムの反応による変色
エメラルドグリーンの顔料に含まれる銅とカドミウムイエローの顔料の主成分である硫化カドミウムのなかの硫黄分が反応して硫化銅を生成し、月日が経つにつれて黒く変色することがあると言われてきました。
今の絵の具は石油から科学的に合成されたものが多いので昔ほど気にする必要は無いようですが
・一応N記号のあるものはシルバーホワイトやファンデーションホワイトと混色しないようにする。
・エメラルドグリーンも今は新しいタイプのものがでていてイエローもパーマネントイエローがでているのでこれを使えば黒変の心配は無いと思われる。
油絵の変色の原因 顔料同志の物理的反応によるもの
ウルトラマリンブルー+チタニウムホワイトの組み合わせでは時間が経つにつれて青が白っぽくなってくることがあります。
これは着色力の強いチタニウムホワイトが比較的着色力の弱いウルトラマリンの青みを喰ってしまうからです。
・・・とマツダのサイトに記載してありますが私の経験では10年以上経っても色味が変わった感じはしません。
ジンクホワイトを使うと逆の現象(青みが強くなる)が見られます。
・・・と同じくマツダのサイトに記載があります。
私は最近は通常下塗りにファンデーションホワイト、それ以降はチタニウムホワイトを使うので何とも言えませんが40年ほど前はジンクホワイトが主流だったのでその頃の作品を見てみるとそう変わった感じはしなようです。
これも変色はそう気にしなくて良いような気がします。
但しジンクホワイトによる亀裂は見られます。
油絵の変色の原因 絵具自体が変わるもの
以前クロムイエローの中の鉛が大気中の硫黄ガスと反応して硫化鉛を生成し、次第に黒っぽくなってくるという現象がありました。
色が黒く変色するもの:クロームイエロー系、クロームグリーン系、バーミリオン
クローム系の絵の具は発色は良いが黒変するという欠点があります。
なので対処法としてはパーマネントイエローを使う、ということです。
パーマネントとは「永遠に変わらない」という意味です。
そうでなくても今時は石油から合成された顔料を使用して油絵の具が作られていることが多いので昔ほど黒く変色することは気にならなくなってきています。
油絵の変色の原因 湿度でカビがはえる
アイボリーブラックを使った絵を湿度の高いところに放置しておくと何年か後にカビが生えてくることがあります。
これは顔料が動物の骨を焼いて作られているためカビの菌が付きやすいということです。
カビが生えたところを拭くと一応取れたりはしますがその部分の黒が褪せた感じになります。
・アイボリーブラックを使った作品は通常のカビ対策同様風通しの良いところに作品同志の間を空けて保管しておく。
・エアパッキンなどに包んだままにしない。
・額縁に入れている場合は額のガラスにカビが付いていないかマメに見ておく。
・内側のガラスやアクリル板を拭いたときは十分乾かしてからセットすること。
などです。
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油絵の変色の原因 紫外線による退色・変色
バーミリオンは日光の紫外線や熱によって黒変します。
警告 「硫化水銀を含みます」とありますのでこれは昔ながらのバーミリオンです。
これは昔から使われてきた色で塩化物イオンの存在下で光を受けると劣化し、黒変することが知られていました。
イタリア・ポンペイ遺跡の壁画(フレスコ画)やルーベンス・ブリューゲルらの絵画でも発生し、こういう貴重な文化遺産を保存する上での課題となっています。
スカーレットレーキ、オーロラピンクは大気に長く晒すと色が褪せてきます。
バーミリオンが黒く変色するのを防ぐには
・直射日光を避ける
・紫外線をカットする特殊アクリル板を使ったフレームに入れる。
・高温になるところは避ける。
・バーミリオンヒューを使うとバーミリオンよりは黒変しにくい。
スカーレットレーキ、オーロラピンクの色褪せを防ぐには
・ワニスを塗っておくとある程度変色を防ぐことが出来る。
などなどです。
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油絵の具のブリード現象による変色
クリムゾンレーキやアリザリンレーキなどのレーキ顔料の上にパーマネントホワイトなどを塗ると下から滲みでてくることがあります。
これをブリード現象と言います。
レーキ顔料というのは体質顔料を染料で着色したものなので染料の色素が動いて上に染み出してくるのです。
・そもそもクリムゾンレーキやアリザリンクリムゾンは下地に使うものではない。
・透明性の高い仕上げ用の美しい色味の絵の具なので不透明な下地の上に薄く重ねるグレージング画
法などに使うようにする。
まとめ
油絵の変色の原因には
1 ホワイトの変色
2 顔料どうしの化学反応による変色
3 顔料どうしの物理的反応による変色
4 絵具自体が変わって変色する
5 カビによる変色、色褪せ
6 紫外線や熱による変色、色褪せ
7 油絵の具のブリード現象による変色
などがあります。
対処法の要点としては
・ホルベインのパーマネントホワイトを使うときは「SF」にする。
・シルバーホワイトにN記号の絵の具を混ぜない(実際は殆ど大丈夫)
・イエローはパーマネントイエローを使う
・アイボリーブラックはカビが生えやすいので注意
・バーミリオンはヒューを使う
・レーキ顔料絵の具は一番上の層に使う
ということでした。参考になれば幸いです。
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